プログラムは900円なのに、読み応え、見応え充分で読み切るのに半日もかかり、再度観たくなる内容です。
新しいCMや冒頭部分の48時間期限の配信、米津玄師氏の「M八七」MV特別映像など、宣伝活動が続き、少しずつネタバレがされています。
興味を引くための僅かなネタバレでも、観たくなかったという意見も散見されるので極力、無しで書きました。
読みながら思い出し、笑ったり納得したり
STORYが5つの事件に分けてかなり細かく書かれており、読むとまた観たくなります。しかも、映画は過去から始まり、5つの事件から現在になります。この過去パートが驚きのサービス満点で一気に空想特撮映画の世界に引き込まれます。
主人公が取り残された子を保護に「ひとり」で走るのはお約束なので最初に笑えました。
でも、ちゃんと新しいストーリーになっています。
最近テレビの報道でリアルに見たことがあったのは「地中貫通型爆弾」でした。
残酷なことです。
ウルトラマンの体表の色については平成三部作で育った息子が喜ぶだろうなと思いました。
怪獣を抱え上げたまま天空に消えた初代ウルトラマンを思い出したシーンもありました。
「見返りウルトラマン」は京都東山にある永観堂の「見返り阿弥陀さま」のようです。
ご存知の上での「見返り」でしょうか。
外星人が電子データを自由に操る高度な科学力を見せつけるフィクションと、
人類が瞬く間に動画を拡散させるリアルの対比が面白く、
また人類の知恵としての超アナログな方法だけが役に立つシニカルさ
(いや、現実感かな)の対比に感心しました。
今の人類や自分たちに内省を促されたりもする
有効資源だから独占管理しようとするか、
廃棄処分かとの対立する見解はそこかしこにありそうですが、
この作品の対象は人類や地球なのだから恐ろしいです。
ザラブは
「彼らも害虫と判断した種は、一方的に虐殺、殲滅している。
私からみれば、同じ事案に過ぎない」と言い切ります。
マルチバース、星雲という想像もつかない広大さを知る外星人が、
人類について「群れ」「村」という言葉がなんどか使っています。
その視点、視座の縮小と拡大には内省を促されます。
顔の見える範囲で助け合う共同体から
戦争をするための「国民国家」という共同体についての
宮台真司氏の考察を思い出していました。
そんな中で登場したゾーフィは「法の奴隷」となるのか、ドキドキしました。
ラストの決断はいわゆる「トロッコ問題」への答えだと思います。
それは主人公を演じた斎藤工氏の言葉にも表れていました。
マルチバースとメタバースの類似点があと数年もすればより身近に感じられるようになるのではないでしょうか。
ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンに造詣の深い宮台真司氏の映画評が早く読みたいです。
キャストの熱い想い
斉藤工さんはさすが主人公の解釈
脚本について「外星人という概念から知的生命体としての人間を捉えていて~惹かれました」との言葉に共感します。ウルトラマンが神永に興味を持った理由を「およそ生産性のない決断をしたことを理解したいという好奇心」と捉えていることは西島秀俊さんの解釈とも通じ、田村班長の決断シーンに涙が出そうになったとのことです。
長澤まさみさんは念願かなって
「シン・ゴジラ」の魅力を現実への落とし込みがリアルだと感じたそうです。そうそう、怪獣映画ではなく会議映画だとかの評もあったけれど、だからこそリアルだったのだと思います。
有岡大貴さんオススメの見どころ共感マックス
外星人と出会って自分の科学の知識では太刀打ち出来ないことを知り、無力感を味わい、
そこから…が見どころだと述べています。
無力感を最初に感じるシーンは、選ばれし禍特対メンバーならずとも、
凡人の私たちでも共感できるものになっています。
VR会議の場面の苦労話が書いてありますが、
コミカルであり、まさに現実と切り結べる貴重なシーンでした。
早見あかりさん
「汎用生物学者」役を難しい専門用語と膨大な量のセリフを早口で演じています。
有岡大貴さんの「非粒子物理学者」とともに
「シン・ゴジラ」の全く役に立たない御用学者の
リアルからの空想への進化が素晴らしい脚本だと思います。
田中哲司さんは当時を知るファンとして
「スペシウム光線の表現のベースを昔のまま。
そこだけアナログな感じもして、当時を知るファンにはうれしかった」と。
スペシウム光線生みの親である光学合成の飯塚定雄氏が
高齢を押して参加されていることを知り、初代世代として感慨深く感じました。
アナログ感を残しつつも、強力な武器らしく魅了されました。
ただ、本作の闘いの上ではあまり役には立っていなかったようですが、
スペシウム光線を使わないウルトラマンは考えられないので、
ファンサービスの意味が大きいのかもしれません。
請求書の件などのお役所ぶりは、シン・ゴジラに比して
とても少なくなっていた貴重なリアルポイントでした。
西島秀俊さんの班長の本質に共感
日本政府や各国の思惑が動いていく物語をとても面白く、
シン・ゴジラに繋がる現実世界にもしこんなことが起きたらというリアルな部分と、
禍威獣や外星人のファンタジーもあって、興味深く脚本を読んだとのことです。
私はリアルをベースにしたファンタジー具合が好きなところで、その割合は西島氏の感覚通りでした。
田村班長の本質だとする最後の決断を彼の本質だとする言葉で、
この作品を読み解くことが出来た気がしました。
サンデル教授にも観てほしい作品、まさにトロッコ問題だと感じました。
スタッフの熱い想い(庵野秀明氏は下記の別記事で)
樋口監督は「帰って来た~」世代
落合陽一氏との対談やみうらじゅん氏とのNHKSWITCHインタビューとても面白く観ていました。
「リアルタイムでみたのは『帰ってきたウルトラマン』世代ですが、
それ以前の作品は毎日のように再放送をやっていたので貪るように観てい」た樋口監督。
再放送がそんなにあったことや、今旧作が配信されていることを知りませんでした。
でもやっぱり庵野秀明氏と同じ初代リアルタイム世代としての想い、時代感は特別だと思いたいです。
今作のウルトラマンが、成田亨氏の油彩画「真実と正義と美の化身」を
モチーフにしたことは早い段階から明らかにされていましたが、
生き物だけれど非生物的な金属的部分のハイブリットな質感を重要視していたとは!
「オリジナルのウルトラマンの物語自体が未来の話しだけれども、
今観ると過去のものに見えてしまう」という言葉は映画作りを超えて、
小学校一年生からの生きてきた時間の長さを突き付けられます。
科特隊シンボルマークの通信機や
ウルトラ警備隊のビデオレシーバーなどにどれだけ憧れたことか。
VFXスーパーバイザー佐藤敦紀
アニメーションで作った後で、
上からウエットスーツを着せたような皺や歪みを加えた
ウエットスーツ表現だったとは、読んで納得しました。
カッコいいけれど、不思議と初代の雰囲気が残ってたのは
そういう訳、技術と工夫なのですね。
ポストプロダクションスーパーバイザー上田倫人
現在の技術で「ウルトラマン」を作ったらどうなるか、
当時の人たちが今と同じ映像技術を手にしていたらどういうふうに作るのかが
キーワードだったとのことです。
マインドは同じと理解しました。
1966年、空想特撮シリーズウルトラマンの誕生の意味
テレビドラマがまだ電気紙芝居と揶揄されていた時代、
劇場映画に見劣りしない良質の娯楽作品を心がけるクリエイティブの根底には、
戦争の愚かさ、平和の尊さを子どもたちに伝えたいという思いがあった
清水節(映画評論家・クリエイティブディレクター)
からこそ、この2022年に新たに甦る必要があったと痛感します。
金城哲夫氏の創作ノートの
「新鮮な素材!完全なプロット!意外な結末!さわやかな感動!」
を今ほど求められている時はないでしょう。
「ウルトラマン」のイメージを確立した成田亨の偉大な功績と『シン・ウルトラマン』
というプログラムの文章は全文引用したいほど、素晴らしいものです。
油彩画「真実と正義と美の化身」をより深く理解できます。
哲学者プラトンの理念から、怪獣がカオス(混沌)ならヒーローはコスモス(秩序)
という考え方に地球人は憧れていないでしょうか。