アイデンティティ確立は世界の哀しみに向き合って 西加奈子「i」感想

読書学び
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「自分の存在の不確かさに悩む人」には勇気を与えてくれるかもしれません。

わたしは「誠実に生きること」とはどういうことかを、この年になって深く教えられました。

「絶望の淵、非力だということの怠惰から、自分のこころを取り戻した」という独白が印象的です。

すべてが繋がってて離れている、独立している…この小説の中でも世界も

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世界中の紛争や災害に対して想像力を持つことは大切なことだけれど

世界中で過去も現在も未来にもあるだろう
戦乱や紛争と災害に対して想像力を持つことは大切なこと、
持たなければいけないことだと思っています。

でも、と言っていいのかどうか、東日本大震災が起きたときに
「具体的な」被害を受けなかった私は外国の災害を悼むような気持ちでした。

理由は二つです。

THE YELLOW MONKEYの「JAM」という曲の
「外国で飛行機が落ちました。
ニュースキャスターは嬉しそうに”乗客に日本人はいませんでした!
いませんでした!」という歌詞に共感していたからです。
(解釈をめぐっていろいろあったようですが)

もう一つは、もう30年以上も前ですが、
母が余命三カ月と伝えられその通りに亡くなった以前も以降も
身近な「死」はなく、慣れることもできず、
自分に引き寄せて考えることから逃げました。


そんな私にとって主人公の内面の葛藤は衝撃的でした。

また、小説としての展開も巧みで一気に読まずにはいられませんでした。

「不幸から免れていることの申し訳なさ」という感性と「恋の喜び」

「血縁ということ」

「幸せを恐れ、恥じること」

「選ばれていることの罪悪感」

などを考えずに生きてきました。

むしろ、ヴェルレーヌの「選ばれてあることの恍惚と不安我に在り」

という言葉に酔うような典型的な十代を送ったりしていました。

恋により存在可能になる主人公。

似た感覚は経験しましたが、
最近「恋」を知らない、しない若い方々が増えているようで、
是非「恋に落ちて」みてほしいと思うと同時に、
恋愛に臆病になる心情も少し理解できたような気がします。

「友情」「恋人」「産むこと」「家族」に鋭く切り込んでくるストーリー

渋谷で背の高い男の人から
音楽イベントと見まごうほどスタイリッシュなビラを渡されたのが、
原発反対デモの参加のきっかけになり、
それは祭りかと思うような、想像も出来ななかったほどの人がる、
若い人間の多いことに主人公は驚きます。

彼女が時々見かけたデモの参観者はほとんど初老の男たちで、
シュプレヒコールを叫んではいたが、とぼとぼと歩いている、
そんな印象しかなかったという描写は当時の状況を思い出させると同時に、
自然で、変に「政治的」でないところが見事だと感じました。

「なんでも話し合うこと」だけが家族ではないのだ、
お互いを慮ることができる関係】

という文章は50代になって知った事でした。

少なくとも私の生育家族ではそんな気遣いは無用で、
創造家族としての夫との間で判りはじめたことです。


2016年の作品でありながら、
画面を通して友情をこれ以上ないほど深めていたこと、
そうした時間を経て直接会うことの重みが、
2020年以降の今日的様相には
優れた表現者が時として予言者たることのまさに現れです。

安部元総理暗殺を予言したかのような島田雅彦氏の「パンとサーカス」もまさに同様です。

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光文社から古典の新訳シリーズが出たときに
多くのことを教えてくれる古典の普遍的価値に圧倒されました。

多くの悩みは既に書かれ、
平田オリザさんには演劇なら何千年も前からテーマになっていると
叱られるでしょう。

しばらくは新訳の古典がマイブームになりました。

その後、朝井リョウさんの現代ならではのアプローチを
面白く読みましたが、小説よりもエッセイやビジネス書を多く読んでいました。


西加奈子さん、中村文則さん、又吉直樹さんたちの鼎談などは
とても好きで、お二人は本の帯でも「i」を激賞しています。

しかし、主人公やテーマが身近ではないと思っていました。

ところが、最近「帰国子女」と
予想以上に心が通わない経験(同世代の帰国子女には感じたことがないので、
年齢・社会経験の差かもしれませんが)をし、
あらためて自分ごととして興味を持ち読み始めたところ、
まったく別の意味でその吸引力に驚いた次第です。

というわけで「違い」を知りたくて読み始めたのに、
そこにあったのは大きな大きな人間としての
「普遍的感情」の在り方でした。

「どうして」の叫びの普遍性と汎用性が恐ろしく、納得させられます

見せかけの優しさや安易な正義でない友情には
西加奈子さんの分身を感じさせます。

世界の紛争や災害に対する向き合い方を少し学んだ気がします。

紛争の歴史や背景を知ることだけが向き合い方ではないのかもしれません。

知ることが第一歩でもありますが、知るほどに絶望も深まっていました。

人間をひとくくりにしないということの重要さもあらためて感じました。

会話や文章の都合上集団として捉えたほうがわかりやすい場合もありますが、
そのわかりやすさに慣れ過ぎて、括ることに鈍感になってはいけないことも
今さらのように感じました。

自分が所属させられたり、分類されるときには敏感で、
おおよそ認めながらも「個々人で違うけれどね」と
エクスキューズを付けてきましたが、遠くなるほど安易に括ってしまいがちです。

最後に

登場人物の名前に深い、幾重もの意味があることも余韻とともに、
感動や考察と忘れないキーポイントになると思います。

文庫本も出ています。

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