「シン・ウルトラマン」ジェンダー視点から考察する残念な箇所と原因

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樋口監督は「対立ではなく、相互理解や融和といった良き未来への可能性」を
オリジナル脚本の金城哲夫さんや円谷監督の精神の根っこを大切にされたようです。

であるならば、外星人より先に、目の前にいる異性などへの目配りの無さが残念でなりません。

同時に、特撮ファンとフェミニストの生産的でない争いに監督は悲しんでいるのではないでしょうか。

セクハラなどと言われて残念で残念しかたない

公開初日初回を観て興奮さめやらない中、残念な二点を感じながらも、
絶賛する感想記事を数時間後に書き上げました。

公開からほどなく、ジェンダー的な観点からの不評が記事になったり、
批判した方のサイトが閉鎖に追い込まれたことを知りました。

プログラムやデザインワークスを熟読し、
その想像をはるかに超えたち密さを知るに連れ、この点が残念で仕方がありません。

「神は細部に宿る」を具体化していくスタッフの途方もない努力が、
こんなにぼんやりとした大きな不快感によって価値を下げてしまったことが
残念で残念で残念でたまりません。


庵野秀明氏がデザインワークスの手記の中で、
私などには絶賛しか耳に入らなかった「エヴァンゲリオン終劇」後の苦痛を語っていますが、
今、この状況をどう思われているかが気になります。

斉藤工氏は主演作がジェンダー問題として取り上げられることに
忸怩たる思いをしているのではないでしょうか。

そろそろ人生の後半、早すぎると言われ、自覚しながらも「余生」と発言しているので、
今後は表に出る俳優よりも作る側に重点を移そうとより強く思う契機になってしまったとしたら、
俳優斎藤工ファンとしては寂しくなってしまいます。

人間斎藤工の多岐に渡る活動の一つではあっても、演者として楽しませてほしい、
杞憂に終わってほしいと切に願います。

セクハラというより不快に感じたのは二つの描写

「シン・ウルトラマン」の予測変換で「セクハラ」が出て来るのはとても残念です。

狭義の「セクハラ」ではないと思いますが、現在の炎上案件としては類例がたくさんあります。

お尻を叩いて気合を入れるシーンの多さ

何度も繰り返されたことで、だんだんと最後には何等かの理由付け、
回収を期待せずにはいられないほど、しつこく無意味だと感じていました。

「昭和オジサン」的気合の入れ方との解釈で、キャラ設定だとの見方もあるようですが、
庵野秀明氏と一歳違いの私は見たことがありません。

記号としての気合の入れ方と知ってはいても、顔だったり、腕だったりで充分なところを、
あのアングルであの手の置き方など不自然さしか感じませんでした。

後に、浅見弘子が男性の尻を叩くシーンもあるとのことで、それはアウトでしょうと思いました。

嗅覚が鍵になるところ長過ぎ‼

とにかく無駄に長いシーンで観ていて苦痛ですらありました。

「嗅覚」が鍵になる点は、なるほど!と思ったものの、続く描写は不快でしかありませんでした。

ここが、「一瞬」であればどれだけ効果的であったかは原因とともに後述します。

カメラアングルまでを批判しなくとも

ハイヒールの履き替えは意味不明

セクハラと批判する方はアングルなどを問題視しているようですが、
そもそもハイヒールに履き替える場面から思い出していたのは、30年前か!という感想です。

ニューヨークのキャリア女性はスニーカーで出勤し、オフィスでハイヒールに履き替えること、
「戦闘モード」がカッコよく伝えられていた時期がありました。

日本ではスニーカー出勤はまだ浸透せず、バリキャリのアイコンとしてのハイヒールだけを真似して、私も9㎝ヒールがデフォルトだったものです。

浅見さんはハイヒールというより、パンプスという表現が今は合っていると思いますが、
「ハイヒール」というアイコンとしての受け止めがされ、カメラアングルまで批判するのは…。

#ku-too が広がり、男女ともにワークスタイルのカジュアル化が進む中、全く無意味に感じました。(もしや、霞が関界隈ではあるのか?)

浅見弘子驚きの登場には拍手喝采

ここは擁護派との最大の争いの部分かもしれませんが、
「初代ウルトラマン」ファンとしては拍手喝采、実相寺・円谷コンビへのオマージュです。

また、後に物語上も必要不可欠なシーンであることがわかります。

アングルを問題視する向きもあるようですが、コミカルな描写や台詞もあり、
多少のことに目くじらを立てたくはありません。(ま、ここだけならですが)

ここは目玉とあってか、公開2週間後の新しいCMではネタバレしています。

原因はプログラムを見たらわかる男だらけ

膨大なスタッフ・関係者がクレジットされる中で、
プログラムの中で経歴とともに紹介されている20余名の中で名前から推測すると
女性は一人しか見当たりませんでした。

この完全な「男社会」が、日常的にジェンダーへの目配りを欠き、
素晴らしい作品の中で唯一の汚点を残してしまった原因だと思います。


この作品のリーダー的地位を任せられる能力や技術を持った女性スタッフが
「たまたま」いなかった、「まだ」育っていないという反論があるでしょう。

しかし、それはもう国会や地方自治体議員から企業の管理職に占める割合の
ジェンダーギャップ問題で聞き飽きた言い訳でしかありません。

一定期間のクオータ制(割り当て)を導入している国は世界に100ヵ国以上あります。

ジェンダーギャップ指数120位の日本ではまだまだ知らない方も多いようですが。

様々な、監督たちの趣味嗜好などからの擁護発言もみましたが、
エヴァシリーズ、シン・ゴジラでは全く感じず、むしろ女性の描き方に好感を持っていたので、
きっと庵野氏は忸怩たる思いではないかとさえ感じていました。

ところが、プログラムを読んで私の誤解であることがわかりました。

樋口監督が「浅見弘子が気合を入れる時に尻を叩くというのは
脚本段階ですでに書かれていた重要な味付けでした。」と述べているのです。

葛城ミサトにもオジサンっぽさはあったなと思いつつ、アニメと実写は違う!と言いたいです。

興行的なマイナスがとても心配に

庵野秀明氏は「デザインワークス」12,000字に及ぶ手記の中で、
クオリティーだけを追求できない時間や製作費をはじめとする
「制約」についてたびたび言及しています。

その「制約」の中に幾ばくかのジェンダーバランスが加えられていれば、
この大きな瑕疵、というより汚点は防げたのにとば思わずにはいられません。

「続編が最初に自分がえがきたかった映像」
「それには本作の興行収入次第」と、語っています。


出足好調な本作ですが、今後は口コミやリピーター次第ではないでしょうか。

私は何度でも観たい、でもあのシーンは観たくないと思っています。

困ったことに、観たくないシーンはたくさんだったり、長いのではっきりしていて、
観たい理由は理解できていない、いわばはっきりしないシーンが
たくさん、たくさんあるから観たいのですが。

この矛盾は意外と大きいです。

斎藤工主演を活かした、さらなる成功があったのに

NETFLIX「ヒヤマケンタロウの妊娠」主演や
その撮影やその他での斎藤工氏のジェンダー的評価は今爆上がりです。

もともと、マツコ・デラックスさんから歩く○○と評され、
本人も光栄に思っていると先日林修の初耳学でも答えていました。

ブレイクのきっかけとなったドラマ「昼顔」では、
監督からの指示もあり、とても地味な教師役でした。

「それでさえ」の人気を博しました。

斎藤工さんを早くからイメージして書かれ、見事に抑えた演技でウルトラマンを演じられていました。

だからこそ、残念極まりなく思えます。

あのシーンは、深い信頼と友情を分かち合った「ウルトラマン」に、
一瞬、鼻を近づけられるだけで充分に女心は変化します。

庵野氏はキスシーンを入れたかったようですが、そんなことはせずとも、
もっと濃厚に、身体に電流が走るようなシーンになったはずです。

あるいはもう少しライトな表現をするなら
若い女性が「きゅんです」シーンとして、観にいきたくなるようにさえ出来たと思います。

バルタン星人生みの親であり、後に「金曜日の妻たちへ」を大ヒットさせた
飯島敏宏監督がご存命なら、女心の知らなさを嘆かれたことでしょう。

膨大な人モノカネも一つの誤りでリターンが大きく変わる社会です。

もはや、ジェンダー問題はフェミニズムや人権問題ではないという良い例が
また一つ増えたのかもしれません。

シンに(笑)、ビジネス上のリスクヘッジとして捉えるべきという感覚がもっと広がることを願います。

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