学生時代はまったく感じなかったのに、
社会に出たとたんに男と女の間にある不平等を突きつけられる…
男女雇用機会均等法の施行から35年がすぎ、さすがにこうしたことは少なくなってきました。
しかし、働いているうちに次第にわかってくるのがいわゆる「ガラスの天井」の存在です。
表立った差別ではないけれども、男性が優位な社会は確かに存在します。
学生時代には全く感じなかった男女の格差は主要7カ国(G7)最下位
世界経済フォーラム(WEF)が3月31日発表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、
日本は世界156カ国中120位、前年の121位からワンランクアップに留まりました。
主要7ヶ国(G7)中で比較すると、昨年に引き続き最下位という結果です。
この指数は世界の有識者が集まるダボス会議の主催者団体
「世界経済フォーラム」の調査によるもので、
労働や賃金、就学率、健康寿命、国会議員の女性参加、平均寿命などに基づきます。
男女共同参画局の課長は、
「他の国の変化が早くて、日本の順位が上がらない」と嘆いていました。
欧米各国は80年代の産業構造の転換を、女性という新しい人材の活用で乗り切りました。
国際社会では30年も前から「産業再生には女性の活用が不可欠」
という考えが常識となっており、女性の活用競争に入っているのです。
また、政治への女性参加を重視する動きも世界中で強まっており、
候補者の一定比率を女性に割り当てる「クオーター制」を採用する国は100か国を超えています。
「女性は日本を救えるか」IMFがリポート発表
IMF(国際通貨基金)は、総会を東京で開催した二〇一二年に
「女性は日本を救えるか」と題するリポートを発表しました。
日本には、出産・子育て時期の女性雇用者数が減るという
M字型雇用の窪み部分に当たる人数が三四〇万人、
また、再就職は多くが非正規雇用という特色があります。
少子高齢化が世界で最も早く進むために起こる生産年齢人口の減少は、
移民に頼るより優秀で教育水準も高い女性を活用すべきであると提言しています。
他の先進国並に女性が働けば労働力不足には止め掛かり、
家計の収入が増え、消費が拡大し、需要が増え、経済が拡大するので、
一人当たりGDPが4%~5%増えると推計しています。
企業の女性トップの増加を目指す国際NPO
「女性取締役インターナショナル」(本部・アメリカ)の議長は
「雲の上の取締役会に女性が何人いようが自分には関係ないと思いがちだが、
取締役会は企業の頭脳です。女性の登用施策や処遇を大きく左右する」といっています。
これを裏付けるのが、『女性の品格』(二〇〇八年 新潮社刊)の著者
(昭和女子大学長)坂東眞理子氏の主張です。
「役員会でトップに直言できるので、社外から働きかけるのとは段違いの速さで女性の登用が進む」
内閣府男女共同参画局長を務め、
朝日生命やアサヒビールの社外取締役での経験からも言えるのでしょう。
女性役員の登用には、社外の目、一般社会の声も大きな力となります。
厚生労働省の局長から資生堂に入り、
二〇〇八年に代表取締役副社長に就いた岩田喜美枝氏は、
「株主の声が追い風になった」と言います。
商品作りには、消費者である女性の声や視点が必要不可欠です。
多くの企業がこれに気付き、女性従業員の活用を進める要因となりました。
さらに、利益に敏感な株主たちが女性の活用の必要性に気付き、
あちこちの会社で声を上げ始めました。
このような取材を長年続けてきた朝日新聞の竹信三恵子記者は、
「半径五メートル以内の人間の言うことは聞くが、遠吠えはマイナスだ」と語っていました。
つまり、女性役員が取締役会で発言すれば、トップをはじめ男性役員も賛同するが、
労働組合などが「男女平等」を叫んでも実現にはなかなか至らないということです。
雇用機会均等法制定前から労働運動にかかわり、
そのなかで女性たちが「男女差別反対」と叫んでいた時代を知る私としては、
実感を持って聞くことができました。
時代の制約がある中でそうした運動があったからこそ
少しずつ世の中が変わってきたことを否定するものではありませんが、
いわゆる「反対運動」ではものごとは進まないと私は考えます。
日本で女性が社会に進出しやすい仕組みをつくるにはどうしたらいいのでしょうか。
クオータ制は100ヵ国以上が導入している世界の現状はどうなっているか
私は、まずは、議員のクオータ制を導入してはと考えています。
すでに100か国を超える国が導入している世界の現状があります。
さらに、ノルウェーでは、2003年に国営企業や上場企業の役員は
男性も女性も最低四〇%にしなければならないという法律が制定されました。
これは女性役員割当制度というものです。
クオータ制に対しては必ず「女性にだけ下駄をはかせるのか」
という反対論が出てきます。
しかし、下駄を履いていたのは男性だということが
医学部入試の不正問題からも明らかになりました。
女医の働き方については医師全体の長時間労働の問題として考えるべきでしょう。
私たちが仕事をするうえで、日常感じる男性優位社会の壁や
ガラスの天井の根っこは、こうした日本の遅れた現状にあります。
現実を冷静に見つめながら、一人ひとりの歩みが日本の後進性の打破につながっています。
女性の社会進出が進んでいることは確かですから、あきらめずに一緒にがんばりましょう。
「ネガティブ・ステレオタイプ」に負けないで
日本企業の中間管理職や人事担当者には、しばしば見られる
「女性は結婚・出産すると離職してしまうので人材投資は無駄になる」
「女性は男性に比べ生産性も向上心も低い」」という認識が見られます。
これは正しいのでしょうか。
実は、こうした認識に表面的に見合うような女性、
すなわち「ネガティブ・ステレオタイプ」は、企業自らが生み出しているものなのです。
これは、独立行政法人・経済産業研究所が、数理理論的に分析していますので、紹介します。
日本の女性の男性と比べた同一企業内での相対労働生産性は、
相対賃金と同程度に低いという事実や、
多くの企業が女性の昇進率を男性より遙かに低くする根拠として、
女性自身が管理職などへの昇進を望まないことを理由にあげるなどの現状があります。
女性の生産性の低さについては、一般職女性に与えられる職が、
男性の職より「価値の低い」職務であることも大きな一因です。
しかしそれだけではなく昇進を望まない、仕事の向上心が低いなど
女性雇用者の就業意欲の問題も関係し、そのような女性の低い就業意欲も
企業自身が生み出している可能性が非常に高くなっています。
日本の従来の終身雇用から分離されて普及した「柔軟な雇用」は、
欧米企業のワーク・ライフ・バランス施策の下で発達した
柔軟な雇用とは全く異質のものです。
欧米企業のワーク・ライフ・バランス施策は、
仕事と家庭の役割の両立し難い雇用者でも、
柔軟な働き方とフルタイム雇用者との均等待遇を得て、
高い就業意欲が持てる雇用制度の達成を意図しており、労働生産性の向上も期待されています。
一方わが国の「柔軟な雇用」は企業にとっての雇用調整の柔軟性を意味し、
それは企業がパート労働者には雇用保障を与えないだけでなく、
年功賃金や昇進機会もほとんど与えないことをも意味し、
その結果パート労働者の仕事達成のインセンティブも
労働生産性も低くなるに至ったと考えられます。
女性の仕事能力への偏見や、長時間労働ができるか否かなど
女性に不公平な基準を用いて資格を判断することを良しとする価値観や、
本人が未だしていない離職を理由に企業が女性の賃金を抑えることを
不当と思わない潜在意識、これらはすべて単なる個人の内面の問題ではなく、
それらの価値観や意識に見合った制度や慣習を支え、
その結果女性人材の不活用という外部不経済や、
女性からの自己投資のインセンティブの剥奪や、
結果として男女の機会と処遇の不平等を生み出しています。
正規雇用者の長時間労働が企業の買手独占によって生じているなら、
その雇用のあり方は社会的に非効率で望ましくありません。
日本で女性の経済活動が進まない状況について
伝統的性別分業を前提とした相互補完的制度が企業と家庭の双方で出来上がり、
その均衡を崩すのが難しいのです。
基本原則は女性人材を活用できない社会が経済的に合理的ではあり得ない
という認識から出発することです。
その認識の下に女性の人材活用に停滞状態を生んでいる現状を支える
労働市場や雇用や家族のあり方を見極め、
男女の真の機会の平等の達成のために、
自由主義的な原則を尊重しながらも、
それらの制度や慣習を政府も企業も家庭も積極的に設計し直すことが極めて重要です。
さらに具体的で、ホットな議論は下記の記事をご参照いただけると幸いです。