同窓会を舞台に複雑に絡まるに人間関係、次々と暴かれていく過去の事実…
「正しい」のは誰か、何が「正しい」のか、今、過去の清算が始まる…!
かつて皆の「先生」だった男「寺井」、
かつて「委員長」で今は良い先生の「菊池」、
かつての「マドンナ」「番長」「がり勉」「のけ者」「恋する女子」が集まり
サスペンス劇場と化す。
コレポリが流行る前に作った蓬莱竜太はスゴイ。
「ああ、この人は私だ」と思わずにいられない
パンフレットの「蓬莱竜太論」では私が前作「漂泊」の主人公に感じた
≪最初はそのダメさ加減に笑っていられても、うかうかしていると
「ああ、この人は私だ」などと思い当って、
次第に胸のあたりにずっしりしたものが溜まり出し、
あとは息を詰めて見守るしかない≫
との文章がありますが、「正しい教室」の菊池先生は教師である夫でした。
夫は「恩師」寺井にそっくりな父親を反面教師に人格形成し、
児童会長や生徒会長を務め、誰からも慕われる人物として歩んできました。
井上芳雄氏はオフィシャルブック中で、ご自身のことを
「僕は優しいとかよく言われますけど、
…たぶん自分自身が否定されるのが得意ではないから…
人をジャッジしたくないし…」と分析されているのを拝読し、
夫とそっくりだと思いました。
井上芳雄氏の演技と蓬莱竜太氏の脚本・演出の見事さゆえ現実と創作がごっちゃになります。
ファーストシーンで保護者と電話をする様は
菊池の「良い」先生ぶりがよく出ており、夫とそっくりで、笑ってしまいました。
同窓会の中で首謀者かつ裏切る過程に話題が及んでくるときに、
教室の隅でライトの下たたずむ姿が目に焼き付いています。
言葉では表現の仕様がないのですが、
後の破綻を知るとあの場面がとても印象深く思い起こされます。
ラストシーンで「希望」の書初めをなぞるところには、
寺井の言葉を受けて、一人ひとりを教え子として思い浮かべていること、
教師としての成長が背中と手の表情から感じ取れました。
先生にサインを出せる子、出せない子
サインを出している子には菊池先生に誠実に応えさせ、
サインが出せない子の中にこそとの寺井の台詞など、
蓬莱氏の洞察力は素晴らしいです。
ただ、過去の寺井のあれほどの事故のときに
保護者の存在がなかったのは現実味に欠けないでしょうか。
(長女が小学校5年時にはいじめの首謀者に(多分に相手母親の被害妄想だったのですが)
息子の5年時にも学級崩壊の中心の悪三人組の一人として
ともに学校に呼び出されるなどの経験があるからでしょうか😅)
児童と教師の関係が焦点なので敢えて省かれたのかとも思いますが、
児童の視点としても児童であるからこそ、
当時の親の振る舞いは大きな影響があったのでは、
少しでも想像できる台詞があったほうが(私が聞き逃したかもしれませんが)厚みが増し、
多くの観客にとって親としての経験からの共感なりを得られたのではないでしょうか。
登場人物それぞれに物語があり、多彩な観客からの共感は充分にあると思いますが。
良い先生の仮面が剝がされる怖さ
以上が、夫と二度目の観劇後の感想ですが、
夫の第一声は「怖かったねー、ミステリー、サスペンスだったね」でした。
仮面が剥がされていく過程の怖さが、
悪者を作らずに構築されていて素晴らしく、
無からこれだけの舞台を創りあげる凄さを私も感じました。
夫は身につまされて重かったかと心配でしたが、
上質な舞台を見たことにより、ストレス解消になったと最大の賛辞を口にしていました。
二回目を見て、ストーリーを追わずに、構成の緻密さや演技をじっくりと味わうことが出来ました。
それぞれの生徒に合わせるあまり、
確固たる自分自身を譲ってはいけないという寺井との
菊池先生の会話は教育や教師のあり方を超えて
薄っぺらな「正しさ」への警告として身に染みました。
作中の「TBO作戦」への裏切りが明らかになり、
寺井に反発を剥き出しにしていく過程、
番長への嫉妬など菊池先生の人間的な多面性をとても興味深く拝見しました。
サスペンスのような巧みな展開
生徒からの手紙があのような形で突然明らかになるのは
サスペンスっぽく、ストーリーとしてドキドキさせられ、
良い先生の仮面が剥がされ破綻する菊池先生は
長い足を投げ出してへたり込む井上さんの演技と相まって秀逸でした。
寺井先生の時代の生徒が親になって
楽しい学校を望むようになるとの台詞に深く共感しました。
教育をめぐる世代の連鎖は日ごろ夫がよく嘆くことでもあります。
1980年代の管理教育を受けた世代が教員と保護者双方におり
「教育」の本質が見失われているという側面も重要かと思います。
夫が教師になりたての頃は
1959年のあの教育反動の年に産まれた世代が教壇に立つ時代が来たかと、
ベテランの先生には言われたようですから、
世代による移り変わりは意外とダイナミックなものなのかもしれません。
元児童の厳しい現実を温かい眼差しで
小西の錯乱と妹の存在の際立つこと、
番長、アパッチの役割の巧みさ、
ねずみ講や見栄をはる人間の滑稽さ、
漆原の女性としての生きにくさ、
地方に住むということなど、
味わいポイントがたくさん、
しかもユーモアを交えた演出は楽しく哀しいものでした。
寺井先生の今のことは忘れてしまうこと、
番長の願いが叶っているとの台詞など、
暴力的で強烈な人物には殊の外拒否反応のある私でも
嫌な気分にさせなかった脚本と演技の力量に感嘆しました。