イライラする毎日、
何にも面白いことがない、
未来に希望が持てない、
やりたいことなんてない、
誰もかれも好きになれない、
美しいことや楽しいことなんてないと、
日常に倦んでいる方におすすめです。
小難しくなく、
主人公が気になってぐいぐい読めて、
本を閉じるときに世界が少しだけ変わって見える、
見ようとする気にさせてくれる主人公に会えます。
大切なもの、ことを忘れないようにする魔法のような、とわの庭のような小説
仕事の気分転換にふと手にした小説「とわの庭」は
大切なもの、ことを忘れないようにする魔法のような、
十和子にとってのとわの庭のような小説でした。
井上奈奈さんの装画・挿画は
薄いグレーの地色に薄い黄色の花が咲く中に少女が座っている
優しく、ふんわりとしたものでした。
不思議なことに挿画の中扉が二枚あるだけで、目次も見出しもない珍しい体裁です。
だから物語の展開がまったくわからない、
まるで目が見えない主人公とともに、
先の見えない人生を歩むようでした。
だからこそ、
主人公の置かれた境遇が兆しはあるもの
突然変化し始めると本を閉じることが出来なくなりました。
どうなってしまうのだろう、どうなるのか、
ミステリーではないのに先が気になってしまうのは、
主人公の行く末を心配する気持ちに他なりません。
怒涛の展開にひっぱられるうちに、優しさと勇気がでる新しい世界が見える
読み始めは、
32年も前に亡くなった母について弟と語り合うことが
望外の喜びであるようなマザーコンプレックスの私にとって
羨ましいような母と娘の優しく豊かな時間が描かれます。
そこから予想だにしなかった展開になるのですが、
作者の描写力の素晴らしさに感心しながら
ぐいぐいと物語世界に引き込まれます。
主人公も度々口にするように、
周りの人々の温かさに助けられながら、
ぐんぐんと自分の人生を切り拓いていく様に
頼もしささえ感じ、勇気づけられました。
犬とともに五感を駆使する喜びを感じることができる人が多いのでは
五感の中で「見る」こと、読むことに
最も重点が置かれている私にとって、
匂いで世界を感知していく様子はとても新鮮でした。
また、今どきの世間では珍しく
犬を筆頭に動物が苦手な私でさえ、
ホッとする気持ちになれる盲導犬「ジョイ」との生活は
多くの方にとっては感動ものだと思います。
社会問題的な親子の在り方については、
物語を包む雰囲気を壊さない程度に距離感をもって語られています。
そこが、壊さない描写の上手さならば、
はっきり、くっきりと変化を表すのにハーレーダビッドソンの音が
使われているのも巧みだと感じました。
私は「いずみ」を「愛」に読み替えましたが、あなたは何と読み替えますか。