ワークライフバランスは社会問題を解決に導く

ワークライフバランス

個人や家族の幸せのためだけでなく、企業の経営戦略においても
ワークライフバランスが欠かせないことは別記事でお伝えした通りです。

もう一歩大きな視点にたつと、様々な社会問題の解決にも役立つのです。

自分や周りの人々がワークライフバランスを図ることは、
社会全体のためにもメリットがある、やがて役に立つことをご理解いただきたく思います。

雇用を拡大し、税収と社会保険の担い手増加で財政赤字を削減

 

世界でもまれな長時間労働が是正されれば、雇用が大幅に増えます。

サービス残業の根絶で119万人、週休二日・年次有給休暇の完全取得で154万人
雇用が増やせるとの試算(労働総研)もあります。

恒常的な残業に対しても当然増員すべきであり、
昨今言われるワークシェアリング以前の話といえるでしょう。

社会保障の給付より負担が重いとされる40代以下の人々は、
団塊より上の世代をうらやましく思っています。

戦前、戦中、戦後の厳しく貧しい時代を生き、
平和で豊かな今の日本を作ってきた世代の苦労を知ろうともせずに、
年金制度など無くすべきという極論さえ聞こえます。

年金制度が整備される以前というのは、子どもが親を養っていました。

親の年金を頼りにしている例が多くある世代が、
働けなくなった老親を養うのは無理でしょう。

7040問題と言われていたものが、ほぼ8050問題に移行しています。

だから、社会保障の担い手すなわち働く人々を増やす必要があるのです。

スウェーデンでは、女性と高齢者を納税者に換えることに成功しています。

また、「オランダの奇跡」と呼ばれるオランダは、
パート労働者の均等待遇により経済を再生しました。

50年前のオランダは日本と似た男女役割分担社会で、女性の労働参加率は2割しかありませんでした。 

しかし、福祉や年金のために税収を増やす必要から、
同じ労働なら待遇の差別を禁止する労働時間差別禁止法を1996年に施行し、
同一労働同一賃金を実現しました。

また、労働時間を柔軟に変更することができるように、
2000年には労働時間調整法も制定しました。

現在の女性の労働参加率は世界でもトップクラスの8割に達しています。

女性管理職の4割はパートタイマーであり、
夫婦で1.5人分の収入を得るという考え方も浸透しています。

ワークライフバランスは少子化の解消に欠かせません

わが国では、以前として(というのも変ですが、無策ゆえに続いている)
少子化問題が喫緊の課題とされていますが、これまで見てきたように、
着実に少子化を解消するには、雇用が確保され、結婚率が上昇し、
育児負担を軽減するために夫婦が協力し合える社会を整備することが重要です。

少子化対策には、カネよりも環境です。

数兆円の「子ども手当」を借金財政で賄ってもらうよりも、
母親が働くほうが家計収入もずっと増えるというものです。

政府にしてもそのほうが税収も増えるのに、なぜ保育所設置のほうに予算を割かないのでしょう。

少子化対策プロジェクトのある委員によると、保育所を必要とする100万人よりも、
子ども手当の対象になる1735万人(2010年支給対象人数)のほうが、
10倍以上だからというのです。

彼女は「どちらのほうが票になる?」といって、担当大臣に一笑に付されたといいます。

「デフレの正体」の生産労働人口の減少を解消

2010年「デフレの正体」(藻谷 浩介著)で消費活動の中心である
生産年齢(15歳~64歳)人口の減少が「内需の縮小」理由だと明らかしました。

1995年に8716万人だったものが、団塊の世代が六五歳以上になる
2015年には7681万人まで減少すると言われました。

リーマンショックの2008年後には、
有償労働をしていた500万人の団塊の世代が定年を迎えている現在、
「100年に一度の不況」よりも「2000年に一度の生産年齢人口の減少」が
景気に影響を及ぼしているとわれました。

国立社会保障・人口問題研究所が公表するデータを元に作られた
「日本の地域別将来推計人口」によると
2010年時点では64%あったシェアが
2020年には59%、
2030年には58%となっています。

2020年の総人口予測は122,226,388人なので生産年齢人口は72,113,568人。

2030年の場合は114,933,301人なので生産年齢人口は66,667,315人。

2010年に比べ、実に1400万人近く働き手が減ってしまいます。

経済に大きなダメージを与える可能性があるということがわかります。

保育や医療・介護職などを需要に見合った労働条件に

その対策として、外国人労働者の受け入れよりもコストのかからない女性の活用、
とりわけ1000万人以上いた生産年齢人口の専業主婦に、
仕事をして収入を得て内需を支えることが期待されました。

女性の就業人口を増やすことは、ワーク・ライフ・バランスが図られなくては成し得ません。

実際に、ウーマノミクス「女性(ウーマン)+経済(エコノミクス)」
という言葉がつくられるほど、女性が活躍する時代です。

女性関連商品の開発に同性の視点が欠かせないことに始まり、
いまや最先端技術の開発現場でも活躍し、
車の購入の際に決定権を持つのも女性のほうが多いことに企業が気づいて10年以上経ちました。

一方で、日本女性の就労人口は依然としてM字型カーブを描いています。

20代後半から30代が少なくなるのです。

これは、国際的に見ても労働・通勤時間が長く、
とくに子育て世代である30代前後の男性の長時間労働が、
女性の仕事と子育ての両立を難しくしている最大の原因です。

女性の活躍にはワーク・ライフ・バランスが鍵になるのです。

また、専業主婦が社会に出るためには、
そのほとんどを担っていた子育てや介護を社会化することが必要です。

逆にいえば、保育や医療・介護などの需要が喚起され、
雇用の場を増やすことにもなるでしょう。

女性が活躍する場を増やすということは、
椅子の奪い合いではなく、椅子の数を増やすことになるのです。

つまり、雇用の場と数を増やし、家計収入が増えることにより
内需を拡大させることが、デフレ脱却の切り札となるはずでした。

ところが、保育や医療・介護などの需要が喚起されたにも関わらず
長時間労働、低賃金などの労働条件が過酷なために
そうした職場の人手不足を招いたのがこの10年です。

かつて女性の無償労働に支えられていた仕事が社会化され
専門職として確立されたにも関わらず
低賃金なのはジェンダーギャップの1つです。

過労死・メンタルヘルス、生活習慣病対策で医療費削減 

2018年度の医療費は43,6兆円で、10年ほど前から高齢化が進むので
毎年一兆円ずつ積み上がると予測されてきた通りになっています。

このうち三分の一は、生活習慣病による医療費です。

生活習慣病を予防することによって、
健康増進、発症抑制、重症化抑制が予測でき、老人医療費を抑えることができます。

厚生白書によると

循環器系の生活習慣病の進行モデルで示すと、

不適切な食生活、運動不足、ストレス過剰といった不健康な生活習慣により
(1つ目の箱)、
糖尿病、高血圧症、脂質異常症といった内臓脂肪症候群としての生活習慣病にかかる
(2つ目の箱)。

その後、心筋梗塞や脳卒中に重症化し(3つ目の箱)、

最後は生活機能の低下、要介護状態となる(4つ目の箱)。

こうした進行を抑えるためには、
境界領域期での生活習慣の改善にしっかり取り組むことが重要である。

それにより、疾病の発症リスク要因を減少させることができ、
生活の質(QOL)の維持とともに、結果として老人医療費の適正化を行うことができる。

今後、医療費の適正化を図っていくためには、生活習慣病対策がますます重要となる。

「高齢化の進行が早いので大した医療費の削減にならない」とか、
「個人の意志しだいなので効果は期待できない」などという意見もありますが、
個人的な医療費やQOL(生活の質)を考えるまでもなく、
やはり健康に過ごしたいと思いませんか。

厚生省と労働省がひとつになっている今(また分割の話しがあるようですが)
ワーク・ライフ・バランス普及のために実効性ある措置として、
労働基準法の遵守に予算をつかってほしいと切に思います。


違法な長時間労働やサービス残業による過労死やメンタルヘルス対策は
現行の労働基準法を守らせることで解決できます。

法律の徹底や監督・指導に必要な予算を確保して欲しいものです。

メタボリックシンドロームの啓蒙活動に予算を使うよりずっと、
社会の健全化に寄与することでしょう。

ワークライフバランスは財政支出の減少に貢献できるかも 

財政支出を減らすにはまず無駄の削減が必要ですが、なかなか効果をあげられません。

ドラッカーによれば、そもそも予算によって運営される公的機関は、
成果や業績に対して支払いを受けるのではなく、
収入は、活動とは関係のない公租公課による収入から割り当てられます。

予算型組織において、成果とはより多くの予算獲得ということになります。

また、業績とは予算の維持ないしは増加を意味します。

予算型組織の地位は、予算の規模と人の数で計られるのです。

東日本大震災の復興予算の流用が問題になったことがありました。

一般の国民感情からすれば信じられない流用ですが、
こうした予算のしくみや官僚組織の「性質」を知ると、
なぜこうした歪みが生じてしまうのかが見えてきます。

30年ほど前の話ですが、知人の公務員は財政論議になると
「赤字を出すくらい支出はしなければならない」と豪語していたものです。

官製ワーキングプアと言われる臨時職員を増や固定化しようとする一方で、
余裕のある正規職員は削減しない理由もおわかりでしょう。

400万人近くいる公務員がワーク・ライフ・バランスのとれた働き方を実現し、
国民としての、また消費者としての目線がしっかり持てるようになれば、
業務の無駄や重複、縦割りの弊害や人的配置の偏りなども見過ごせなくなる…
というのは期待しすぎでしょうか。

マスコミによる公務員バッシングには馬耳東風でも、
たとえば地域活動でいっしょになる顔の見える隣人の苦言なら聞く耳を持つと思うのですが。


公的機関のみならず、企業内サービス部門でも同じ性格、同じ行動が見られます。

企業と従業員のウィン-ウィン関係を目指めざす
ワーク・ライフ・バランスを考えるうえで、
これは生産性向上にかかわる重要な課題といえるでしょう。

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